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小網代 森と干潟つうしん バックナンバー |
三崎口駅に到着するとゴールデンウィーク2日目で晴天とあって大勢の行楽客でにぎわっていた。
4月29日(昭和の日)、恒例の春の小網代を歩く自然観察会が23名の観察者と13名のスタッフで開催された。三崎方向へ続く、渋滞の車列を横目に見ながら小網代の谷の最上流である引橋へと歩いた。引橋では小網代の谷の全景を見るとともに初声の谷、東京湾方向の谷との分水界を確認した。さらに、ツリーウォークのように木を上から眺めることができるため、新緑の木々について、じっくりと観察することができた。マテバシイ、スダジイなどの常緑樹。ミズキ、ハゼなどの落葉広葉樹。フジ、サルトリイバラなどの蔓性植物を見ながら、南側の尾根を小網代給水塔から義士塚、刀塚を経て大きな銀杏の木のある農家のわきから宮前の峠へと春の草花を観察しながらゆっくりと歩いた。
バッタやハナムグリなど野の花には昆虫が群がっており、宮前の峠では、確実に地温が上昇しているようでアカテガニ、クロベンケイガニが活動を開始していた。
アカテガニ広場で昼食の後、干潟の清掃を行った。暖かかったので干潟のカニ達も活動が活発でアシハラガニ、ハマガニ、チゴガニなどなど、さまざまな種類のカニ達に出会うことができた。
まとめの会では、保全の進行状況、トラスト緑地支援会員制度の説明など行い、終了となった。
帰り道は北尾根を通り、ヤマユリの株、ホウチャクソウ、ササバギンランを確認し、帰路についた。
この日は、天気の特異日とあって一日中、晴天で気温も高く、生き物の賑わいを感じられた良い一日であった。
小網代の森で暮らすカニの主役はアカテガニですが干潟で暮らすカニの主役はチゴガニとコメツキガニです。アカテガニは小網代の森でミミズやケムシを食べて夏の放仔に備えますが、干潟のカニたちの食事はどうでしょう。カニの口は口の前に付属肢というものがあり、食事をするのに大事な働きをしています。付属肢はもともと節足動物の先祖が持っていた脚が次第に口器の一部として変形してきたもので、6対の付属肢からできています。したがって口器付属肢をよく見るとそのカニがどんな食事をしているかがわかります。
干潟のチゴガニとコメツキガニは干潟の砂粒に含まれている小さな珪藻類、有機物片、砂粒表面のバクテリアなどを食べています。食事中のチゴガニやコメツキガニは盛んにハサミで砂粒を口の中に運んでいます。口に運ばれた砂粒はまず、鰓から押し出されてきた水で洗われて、重い砂の部分と軽い食物を含んだ部分に分けられます。食物を含んだ水は口器付属肢の間に吸い込まれ、水中をただよっていた食物類は水が鰓に再吸収されると口器付属肢の表面の剛毛に付着します。食物類が無駄なく付着するように付属肢の水が通る部分にはまんべんなく鳥の羽のような毛がたくさん生えています。特に砂っぽい干潟で暮らすコメツキガニのような種類のカニは高いこしとり能力が必要なのでスプーン状の毛、砂と泥の混ざった場所に暮らすチゴガニでは耳かき状かブラシ状の毛をしています。アカテガニなどではこしとりを必要としないので針状の毛しか生えていません。
次に、食事のときに残った重い砂粒は口の出口に集められます。濾過した残りの砂が口器の上にたまるか、下にたまるかは口器での水の使い方と関係があるようです。
チゴガニでは砂粒は上からできはじめて下に溜まりますが、コメツキガニでは下から持ち上がって上に溜まります。コメツキガニは口の上に溜まった砂粒をハサミでつまみとってポイット捨てるので砂団子を上手に作ります。チゴガニは口の下側に溜まった砂粒をハサミでかきおとすだけなので砂団子が上手にできません。しかし、チゴガニは巣穴の周りにさまざまなバリケードを作るのでこのときには大きな砂団子を作って並べます。
干潟のカニたちは食事の後はダンスです。カニのダンスはウエービングと言われます。
干潟のカニのダンスはオスの求愛行動と考えられています。コメツキガニの場合、オスは周囲にメスが多くいるときには頻繁にウエービングを行いますが、周りにオスが多くいる場合にはほとんどウエービングを行いません。また、コメツキガニでは巣穴を持つ大きなオスと巣穴を持たない小さなオスが見られますが、ウエービングが見られるオスは大部分が巣穴を持つオスです。このことからコメツキガニのオスのウエービングは巣穴を持つオスであることをアピールする求愛行動として作用しているようです。(コメツキガニでは巣穴を持っているオスの方が巣穴を持たないオスより繁殖成功率が約4倍高い)つぎはチゴガニのダンスです。日本の干潟に暮らすチゴガニの仲間はチゴガニと九州の有明海のハラグレチゴガニの2種類です。日本から東南アジアにかけて見られるチゴガニ類15種類のウエービングを細かく観察した研究によるとチゴガニ類のウエービングは3つのタイプに分類され、外側から内側に円を描くようにハサミ振るタイプ、左右のハサミを同時に上下に動かす垂直のハサミ振りタイプ、左右のハサミをバラバラに動かす非対称のハサミ振りタイプが見られます。一番多く見られるタイプは円を描くタイプで日本のチゴガニを含めて9種います。非対称のタイプは2種で、垂直のタイプが4種です。また、分子生物学的な系統発生の研究からハサミ振りタイプは円を描くタイプから垂直のタイプと非対称のタイプが進化したものと考えられています。
チゴガニのオスは繁殖期にメスが接近するとそのメスに向けてウエービングを行い、自分の巣穴に誘い込みます。しかし、チゴガニの場合には、オスはメスが近くにいないときにもウエービングを行います。特定の相手には向けられないこのウエービングの機能はまだはっきりと解明されていませんが、繁殖期に限ってこのウエービングが見られることからつがい形成に機能しているようです。このウエービングについての野外での研究によると、オスのウエービング個体数の多い集団と少ない集団とではメスはオスのウエービングが多い集団を選択するという結果となっています。したがって、この特定の相手に向けられないウエービングは遠くにいるメスを自分たちの集団に誘引する効果があるようです。
干潟のカニたちをじっと観察するだけでもおもしろいことや不思議なことがまだまだたくさんあります。是非、小網代の干潟に出かけてみてください。
(参考資料:和田先生(奈良女子大)の研究;小野先生(九州大学)の研究)
2/11 | スタッフ会議 役所屋フリースペース |
2/17 | 横須賀博物館見学 |
2/19 | NPO法人小網代野外活動調整会議 定例作業支援 |
3/10 | NPO法人小網代野外活動調整会議 第2回ココボラ支援(雨天中止) |
3/10 | 日本ナショナルトラスト協会総会、全国大会 (於・ハンドレッドスクエア倶楽部:祖父川、高橋) |
3/17 | スタッフ会議 横須賀市民活動サポートセンター |
3/17 | つうしんNo.122 印刷・発行作業 |
4/21 | スタッフ会議 役所屋フリースペース |
4/29 | 第108回自然観察&クリーン(担当 矢部) |
5/7 | 三浦まるごと博物館出展(宮本) |
5/13 | 鶴見川源流祭参加 |
文・宮本美織 写真・松下景太
小網代の森の緑も一段と濃くなり森から聞こえる小鳥たちの声も干潟で楽しめるようになりました。アカテガニをはじめ干潟のカニたちも食事をしたりダンスをしたりと忙しそうです。初夏の一日、干潟のカニのダンスをご覧になってはいかがでしょうか。
6月23日(土)AM10時 三崎口駅前集合 小雨実施
持ち物:長靴、お弁当、飲み物、雨具、小さなお子さんは着替えの服もあると安心です
講 師:小倉雅實さん
小網代 森と干潟つうしん NO.123 2012年5月19日発行 森も海も干潟も 奇跡の集水域生態系を未来の子どもたちへ |