”観察会日誌カニと貝”
天気予報を気にしながらも三崎口駅にはつぎつぎと参加者が集まり、空模様もだんだん良くなって梅雨空のなかラッキーな観察会が開催できました。
いつものとおりバス組と徒歩組に分かれて森をめざします。気温も上がりだして農道では汗をかきながらのハイキングとなりました。遠く伊豆半島の上には&層雲や積乱雲も見え隠れして天気の不安定な様子が伺われます。湿った畑の土の上にはノウサギの足跡がくっきり残りピーターラビットと農家の追っかけごっこが目にうかびます。北の尾根道から森に入ると木陰はぐっと涼しくなり、ヤマユリが重たい花をたれていました。

今回の観察会は干潟のカニや貝の観察が目的です。大蔵緑地で長靴に履き替え採集用のバケツと網をもらって干潟へ向かいます。潮の引き具合があまり良くないとの予想でしたが、河口の石橋から干潟に入ると少しずつ潮が引いてきてチコガニたちが元気に出迎えてくれました。毎度見慣れたはさみ振りの光景ですが何度見てもつい見つめてしまうひょうきんな動作に、初参加者の皆さんはそれこそ歓迎を受けているように感じるひとこまです。はさみを上げたときに見える青紫色のおなかの模様がひときわくっきり美しく輝きます。子供たちは捕まえようと手をのばしますが、そのたびにサット穴の中へ逃げ込まれ延々とモグラたたきならぬカニたたきを続けています。
干潟やそれに続く芦原には大小さまざまな穴があいています。それぞれの穴はそれぞれの生き物の住まいだということは想像できますが、さて何が入っているのかというとさっぱりわかりません。チゴガニやアシハラガニ
のように出たり入ったりしてくれれば、家主さんがわかるのですが・・・。

そこでジャジャーンと現れた助っ人が、今回の観察会の初めに参加者の皆さんにおもとめいただいたNPO小網代野外活動調整会議が発行した「小網代干潟観察安全ガイド」です。ほんの一枚の絵地図ですがこの
ガイドを片手にぐるっと周囲を見渡すとあらあらふしぎ、さっきまで見えなかったさまざまな干潟の生き物が自分の足元にざわざわとうごめいているのが見えてきます。ほんとうに足の置き場にこまってしまいます。干潟を歩くときは澪す
じを通りましょうという意味がよくわかります。今回ゴムぞうりを持参した方がおられましたが、干潟には危険な生き物や、危ない貝殻などもあり、ぜひ長靴をご用意ください。
講師の小倉さんが終わりの会でおっしゃった、「このスガイの蓋をお酢に入れるとくるくるまわるのを、むかしの子供たちは楽しんだ。」とのひとことに意味がわからず。くわしく説明していただくと、藻におお
われた2センチくらいの小さな巻貝ですが、ゆでて食べるとサザエとおなじ味がして、その残った小さなふたをお酢のなかに落とすと、貝殻が酸で溶けるときの勢いでくるくる回るとのことです。どなたか試されたことのある方は
ご報告ください。
(本日の参加者大人11名、子供5名、スタッフ8名)
文と絵 高橋伸和
※ 観察会はNPO法人小網代野外活動調整会議と共催で実施し、アカテガニ広場や倉庫を使わせていただきました。
鉄の歯と石の目を持っているヒザラガイ

貝の仲間、軟体動物は巻き貝、二枚貝など大きく分けると8つのグループがあります。
ヒザラガイ類は多板類といわれ、体は8枚の殻板で覆われています。世界では約800種で、日本周辺には100種ほどが知られていますが、今後150種以上になると思われます。ヒザラガイ(Acanthopleura japonica
(Lischke,1873)は漢字では膝皿貝あるいは火皿貝と書きます。また岩からはがしたときに丸まった形からジイガセ(爺が背、石鼈)とも言います。ちなみにババガセ(Placiphorella stimpsoni(Gould,1859)、ヒゲヒザラガイ科
(Mopaliidae)で、 相模湾の潮間帯でも見られます)というヒザラガイの仲間もいます。ヒザラガイは焼いて食べるとアワビに似た味がするようです。ヒザラガイ類の方言には南日本で多く用いられていたクズマ系統と紀伊半島や
関東で多く用いられていたコゴ系統があります。三浦でも昔、ヒザラガイをコーゴとかコゴと呼び、ゆでて殻をとり酢の物にして食べていたそうです。ヒザラガイ類はすべて海産で、海岸の岩の上などで生活し、多くのヒザラガイ類
は夜の干潮時に休息場所から動き出して、岩の表面に生えている小さな藻類などをヤスリ状の歯(歯舌)で削り取って食べています
。そして潮が満ちてくると、元いた場所に戻ってきます。ヒザラガイはさまざまな環境ストレスや
捕食者の危険などを回避するために体がぴったりと収まる場所や日陰になる場所を確保して昼間は休息しています。この休息場所を「家」といい、この行動を「帰家行動」といいます。ではどのようにしてヒザラガイは「家」に帰っ
てこられるのでしょうか?そこでどうやって「家」に帰っているのかを調べる実験が行われています。仮説としては、その1:海岸の地形を記憶している。その2:移動した距離や道順を記憶している。その3:這い痕に残った粘液
を道しるべにしている。その4:「家」から匂いの信号が出ている。その5:体内コンパスを使っている。などが検討されています。
これまでのところ這い痕の粘液を道しるべにして帰家しているという仮設が有力ですがまだよくわかっていません。また、ヒザラガイの場合帰家率が30から40パーセント程度と低く、どのような状況で帰家したりしなか
ったりするのかも不明です。
ヒザラガイ類ではそのヤスリ状の歯(歯舌)に鉄を成分とするマグネタイト(磁鉄鉱)が含まれていることが知られています。解剖して取り出したヒザラガイの歯舌が磁石に引きつけられることで確認できるので試してみた
らどうでしょう。マグネタイトが歯舌の材料として使われるほかの成分よりもはるかに硬いことから、巻貝のなかまに比べてより効率的に摂餌する能力をもつことが知られています。しかし、生物の体を作る材料として非常にまれ
な物質であるマグネタイトがヒザラガイ類の生活にどのようにかかわっているのか、確かなことはわかっていません。ヒザラガイ類のもう一つの注目する点は、光感覚細胞を含んだaesthete(エステェート)と呼ばれる器官が殻を
貫通して表面に分布していることです。しかし、この細胞がどのような役割を果たしているのか、なぜこのような巨大な細胞が必要なのかということについてもわかっていませんでした。
ヒザラガイの目の話
アメリカの大学のダニエル、スパイザーさんの研究によると、ヒザラガイの目はアラレ石(鉱物アラゴナイト)でできているそうです。アラゴナイトは方解石と同じ炭酸カルシウムの結晶です。このヒザラガイは小網代にも暮らしているヒザラガイAcanthopleura
japonica (Lischke,1873)と非常に近い仲間で、アメリカのカリブ海の近くに暮らしているヒザラガイの仲間のWest Indian
fuzzy chiton,(Acanthopleura granulate (Gmelin,1791))というヒザラガイです。ヒザラガイ類は背中に8枚の殻板を持っています。殻板の表面にはエステェート(aesthete:枝状感覚器)と呼ばれる光感覚細胞を含んだ器官が
分布していることが昔から知られています。そしてはっきりとした単眼を殻板に見出せる仲間がこのアメリカのヒザラガイです。単眼は8枚すべての殻板の全域にわたって分布していますが、前方の殻板の上にたくさん見られます。
そしてこれらの単眼は色素層、網膜、レンズをそれぞれ含んでいます。この研究で、ヒザラガイのレンズが鉱物アラゴナイトから作られていることが判明しました(ほとんどすべての生物のレンズはタンパク質からできています)。
アラゴナイトのレンズは複屈折をします。そして、目を持っているこのアメリカのヒザラガイは空気中と水中の両方でイメージを捉えることができます。この研究ではヒザラガイの目の光学モデルを用いて解析し、
アラゴナイトのレンズによって水中でも空気中でも焦点の合ったイメージがヒザラガイの網膜にできることが示されています。つぎに、ヒザラガイの空間の視覚のテストを行っています。このヒザラガイは水中にいるときに、
黒い円盤が突然現れると反応しました。空気中でのテストでも9度の角度から現れる黒い円盤に反応しましたが、これに対応するグレーのスクリーンには反応しませんでした。(明るさの急激な変化)これらのテストの結果は
ヒザラガイのレンズが水中と空気中の両方でイメージを形成するという光学モデルに矛盾しないことがわかりました。また、他の実験も加えたテスト結果からこのヒザラガイでの視覚によって引き起こされる防御反応が空間的な情報
と全体的な明るさの減少の両方によって影響を受けることもわかりました。つぎに、目を持っているヒザラガイAcanthopleura granulate (Gmelin,1791)と目を持っていないヒザラガイChaetopleura apiculata(Say in Conrad,1834)
を用いて空間の視覚行動の実験を行っています。結果は目を持たないヒザラガイは明るさの非常に小さな変化に対して敏感ですが(9度の角度から現れる黒い円盤とこれに対応する明るさの急激な変化にも反応しました)、目を持っ
ているヒザラガイは9度の角度から現れる対象物(黒い円盤)を区別することが可能であることがわかりました。(1度と3度では反応しませんでした、そして27度では黒い円盤にもこれに対応する明るさの急激な変化にも反応し
ました)複屈折のアラゴナイトのレンズを持っているヒザラガイは水中と空気中の両方でうまくイメージを捕らえることが可能であり、潮間帯で暮らすヒザラガイにおいてはタンパク質からできている目よりもアラゴナイトの目のほ
うがより有効のようです。ヒザラガイ類は他の貝類に見られない特徴をもつ一方で、軟体動物のなかでも原始的な特徴を持っています。消化管の蛇行を除いて完全に左右相称であることや、*ベリンジャー幼生を経ないでトロコフォ
ア幼生から定着する点、殻にみられる節構造など環形動物との共通性が見られます。これらのことからヒザラガイ類はたいへん興味深い貝の仲間です。小網代干潟のイギリス海岸ではいつでも見られる干潟の仲間です。干潟に出かけ
たときには是非出会ってください。
*軟体動物の一般的な発生様式は卵割後にトロコフォア幼生からベリンジャー幼生を経て成体になります。巻貝類、二枚貝類はこのように発生しますが、ヒザラガイ類ではトロコフォア幼生から変態
して成体になります。
参考資料: 海の味―異色の食習慣探訪―、山下欣二著、八坂書房、1998
日本貝類方言集、川名輿、未來社、1998年
千葉生物誌24(1,2) 千葉県生物学会、1975
三浦半島の民俗Ⅰ 神奈川県民俗調査報告④、神奈川県立博物館、1971
遺伝、vol.41,no.4;1987
遺伝、vol.55,no.3;2001
アメリカの大学のダニエル、スパイザーさんの研究
小倉 雅實
◆ アカテガニ募金のかにグッズ
今年の夏もNPO法人小網代野外活動調整会議がカニパトロールを小網代干潟で実施の予定です。その際共催させてもらっている小網代の森と干潟を守る会ではアカテガニ募金の参加の印を提供しています。
今回は一番、新しいカニパトグッズの紹介です。
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No.12 リユース防水でかバッグ
廃棄されたカニパトのユニフォームの胴長靴の使える部分で作った防水バック、カニ柄の布にカニパトで使っていたフエルトのカニバッジを縫い付けました。世界で唯一の作品です。細かい所には目をつぶって下
さい。 |
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No.13 カニをデザインした小さな陶器のいれもの
高さ10cm程度、ドライフラワーなら確実に、
水漏れがなかったものに当たった方は超ラッキー。三浦で育ったオオシマザクラを焼いてできた灰を釉薬にしてできています。どこかに桜色が現れています。 |

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No.14 アカテガニを描いた壷をだいた一輪挿し
いろいろな形にアカテガニのついた壷を抱かせました。中は空洞なので、水がたくさん、入ります。大きさは10cm程度、小さい空間を飾って下さい。 |
番外
これは守る会が会の資金調達用にスタッフの撮った写真をはめ込んで作成したキーホルダー。作るのが楽しかったと評判の一品。 1個300円で例会やカニパトの折に販売しております。
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この他、紹介ずみのカニを中心に粘土の世界にはめ込んだカニのペンダント(つうしん第126号 カニグッズ(3)で紹介済み)が多数、干潟で皆様とのおめもじをまっております。
カニグッズ収集家 ときにはカニグッズ制作家 宮本
*1 現在「アカテガニ募金」はNPO法人小網代野外活動調整会議が預かり、トラスト財団に寄付をしています。
*2 現在カニパトロールはNPO法人小網代野外活動調整会議が実施しています。
小網代の森と干潟を守る会は”森も海も干潟も 奇跡の集水域生態系を未来の子どもたちへ”をスローガンとして活動しています。
◆ 会員更新のお願い
会員の皆さまには、すでに更新のお願いと振込用紙をお届けしております。
是非、来年度も引き続き会員としてご支援くださいますようお願い申し上げます。
年間会費(2013年7月~2014年6月)は、通常の会員は1,000円、賛助会員は5,000円で、いずれも振替料金のご負担をお願いしております。
郵便振替(00の払込取扱票) 00260-4-21569 小網代の森と干潟を守る会
◆ 新入会員募集のお知らせ
小網代の森と干潟を守る会の入会は随時受け付けておりますが、会員年度は7月から翌年の6月末までとなります。下記の口座に年間会費をお振込みください。その際、
通信欄に 「入会希望」とお書き下さい。またメールアドレスをお書きいただいた方には会員専用ページのIDとパスワードをお知らせします。
郵便振替(00の払込取扱票) 00260-4-21569 小網代の森と干潟を守る会
入会金は無料です。年間会費(2013年7月~2014年6月)は、通常の会員は1,000円、賛助会員は5,000円で、いずれも振替料金のご負担をお願いしております。
● 2013年度カニパトロールは以下の日程で行います。
Ⅰ期: 7月27日(土)・28日(日)
Ⅱ期: 8月10日(土)・11日(日)
Ⅲ期: 8月24日(土)・25日(日)
17時~20時、小網代湾奥・アカテガニ広場で実施します。
● カニパトに参加されるにあたって、ご注意いただきたいこと
実施要領、注意事項、装備については必ず事前にNPO法人小網代野外活動調整会議ホームページの情報をご確認ください。
当日荒天(雨・強風・波浪・雷等)により、観察中止になることがあります。
(中止決定次第、ホームページhttp://www.koajiro.org/に掲載されます。)
森の中にトイレはありませんので、事前に森の外でお済ませください。
(三崎口駅構内トイレ、シーボニア前公衆トイレが拝借できます。)
1時間ほど水の中に立って放仔観察をしますので、水に入れる装備(長靴が最適、
サンダル危険)、懐中電灯をご持参ください。
お問い合わせ
NPO小網代野外活動調整会議事務局
TEL: 045-540-8320
URL: http://www.koajiro.org/

小網代の森と干潟を守る会は、8月10日のカニパトロールに参加します。 会からのお知らせは下記、第116回 自然観察&クリーンのお知らせをご覧ください
◆トラスト緑地保全支援会員になるには
トラスト財団のパンフレットにある申込書に記入して郵送します。またはトラスト財団のホームページ
(http://ktm.or.jp)から、申し込むことができます。
支援したい緑地にはぜひ「小網代の森」をお選びください。 通常のトラスト会費(大人2000円、中高生1000円、小学生500円、家族会員3000円)の他に3000円の支援会員会費が必要です。
よろしくお願いします。
◆小網代応援団に入るには
NPO法人小網代野外活動調整会議(電話:045-540-8320 E-mail: koajiro@koajiro.org)までお問い合わせください。
「小網代応援団」に登録していただいた方には、年に数回の特別観察会をご案内いたします。森と干潟の様子をしっかり見守り、楽しみながら、大好きな森を育てていきましょう。
◆ カニのあかちゃんとこんにちは! アカテガニの放仔
真夏の大潮の夜、アカテガニのかあさんたちが山をおりてきます。お腹いっぱいに抱えたあかちゃんが生きるためには海が必要だから、あかちゃんを海に放すには今夜がいちばんよい日だから、 かあさんガニはひたすら海を目指します。卵のように丸くなって母さんのお腹にいたあかちゃんは海に放たれるとすぐにゾエア幼生の姿で泳ぎだし、大潮の流れに乗って外海へと旅に出ます。人間の私たちは海の中から静かに アカテガニのお産を見守りましょう。そして旅立ち前のあかちゃん(ゾエア幼生)の姿や泳ぎも観察したいと思います。 |
日 時 |
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8月10日(土)(中止の場合は8/11順延) |
集 合 |
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16時 三崎口駅前(トイレがありませんので必ず駅で済ませてください) |
解 散 |
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21時 三崎口駅前解散 |
持ち物 |
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長靴、お弁当、飲み物、雨具、虫よけスプレーなど防虫グッズ、懐中電灯
着替え |
参加費 |
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無料 |
申し込み |
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当日現地で受け付けします |
① 徒歩コース |
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駅から干潟まで、スタッフの案内で三戸浜の眺望を楽しみながら、30分くらいの道のりを歩きます(熱中症対策を十分にお願いします)。 |
② バスコース |
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駅からバスで12分、シーボニア入口から白髭神社を通って干潟に出ます。 (スタッフが同乗します)
* バス料金は片道260円、ファミリー割引期間中なので、(現金・PASMO・Suica・回数券でお支払いの場合)大人1名につき小学生のお子さん1名が無料になります |
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①、②どちらのコースも小網代の森と干潟を守る会のスタッフが往復のご案内をいたしますが、干潟ではNPO法人小網代野外活動調整会議のカニパトロールに参加していただきます。 |
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雨にかかわらず、荒天(強風・波浪・雷等)の場合、観察中止になることがあります。 (カニパトを主催するNPO法人小網代野外活動調整会議の判断に従います。
中止決定次第、ホームページhttp://www.koajiro.org/に掲載されます。) |
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ご参加の際は、上記・NPO法人小網代野外活動調整会議のお知らせにある「●カニパトに参加されるにあたって、ご注意いただきたいこと」を必ずお読みくださいますよう、お願いいたします。 |